1983年10月22日付け全米チャート
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2017年8月8日、グレン・キャンベルさんの永眠が伝えられました。81歳。その日が来た、という想いでした。11年6月にアルツハイマーを公表し、12年11月までさよならツアーを行なった彼は、その年2月のグラミー賞にてお別れの意味で「ラインストーン・カウボーイ」を披露しています。14年にはドキュメンタリー映画『GLEN CAMPBELL : I'LL BE ME』が製作され、そこに用いられた「I'm Gonna Be Me」は15年にアカデミー賞候補にもなりセレモニーでは、14年4月に治療施設に入った当人に替わり、立派な後輩ティム・マッグロウがこれを歌っています。このように、グレン自身が旅の終りをちゃんと認識し、ファンのために最期まで力を尽くしてくれました。
コカ・コーラのCMソングとして流れていた「カミング・ホーム」は耳にしていたはずですが、私がグレンを名のある歌手として知ったのは「恋はフェニックス」や「ウイチタ・ラインマン」「ガルべストン」など一連の名曲群のずっと後でした。毎週欠かさず『全米トップ40』を聴き出した75年、「ラインストーン・カウボーイ」がチャートを駆け上り9月にKC&サンシャイン・バンドの「ゲット・ダウン・トゥナイト」を蹴落としてNo.1になったのをラジオの前で知り、昔のスターだと思っていた人がこんないい曲で大ヒットを飛ばすなんて、やっぱアメリカ深いわ~と感動したように記憶しています。ディレクターだった岡田三郎さんの演出もあったのだろうと後に納得しますが、この劇的な第1位獲得発表の直前に、グレンのキャリアを簡単に音で凝縮する部分もあって、その瞬間に間違いなくラジオの魔法に痺れてしまい、私も長い旅に出る準備を始めていたように思います。
グレンのたくさんの名曲を後追いで知るにつけ、ジミー・ウェッブを初めとする才能あるソングライターによる楽曲が、それを想像もできないほど意義深い歌唱に転化しえる歌い手と巡り逢うという運命の不思議さを感じずにはいられませんでした。また、その歌い手の資質を育んだ背景に関しても同様です。名著『レッキング・クルーのいい仕事』に詳しいグレンのスターダムへの果てしなく険しい道のりは、そのすべての道程こそ彼ならではの誰にも出せない歌声に結びついた意義ある時間だったと示しています。同書を通じ、ポップ・カントリーと括られる彼のスタイルに内包する、豊潤で限りない深みと多彩な味わいに満ちた様々な音楽の要素が、いかにアメリカの大地と人々によって育まれてきたかということが想像できるのです。アーカンソーの風の香りが心の中を吹き抜けるように。
例えば、「トゥルー・グリット」。私がなかなかCD音源で入手できなかったこの曲は、グレンがジョン・ウェインと共演した69年の西部劇映画『勇気ある追跡』の主題歌でした。主演男優賞を獲得したウェインにとってこれが最初で最後のオスカーとなる記念すべき作品にて、グレンの若々しい演技も印象深いものでした(余談ですが、同作は2010年にジョエル&イーサン・コーエン監督でリメイクされ<『トゥルー・グリット』>、13歳で出演したヘイリー・スタンフェルドはアカデミーの助演女優候補となり、彼女はさらに15年にシンガーとしても「ラヴ・マイセルフ」のヒットを飛ばし、傑作映画『ピッチ・パーフェクト』の続編などでも大活躍します...すいませんヘイリーのかわいい鼻の形のファンなもので)。
あるいは、アン・マレーとのデュエット「小さな願い 恋はフェニックス」。同じキャピトル・レコーズ所属だったふたりが、グレンの67年の出世曲とバカラックの傑作とをメドレーというよりも2曲を織り込んだ(今で言うマッシュアップ)で歌い、互いの声の魅力を曲の特質と見事に重ね合わせたすばらし過ぎる仕上がりにしています。71年全米第81位というポジションは嘘みたいです。この曲の存在を、担当していた番組に届いたリスナーからのリクエストで知った私は幸せ者で、76年に第26位を記録した「Don't Pull Your Love/Then You Can Tell Me Goodbye 恋のかけひき」(泣ける出来)の源流を発見した気持ちでした。リアル・タイムでの「ラインストーン・カウボーイ」や「哀愁の南」のような大ヒット以外にも聴くべく価値に溢れたたくさんの曲があり、それらと出会ってさらに多くの人たちに紹介するのはきわめて大切な仕事ーグレンの残した作品に触れて思い到ったことでした。
2017年6月に発表された、今のところの彼の最新作は、11年の病の公表後12年11月から13年1月にかけて制作された、つまりラスト・アルバムとなることを想定した作品集『ADIOS』(UMe 5764976)です。「うわさの男」からタイトル・ソングまで12曲、すてきなカヴァーなどをウィリー・ネルソンやヴィンス・ギルらのゲストと、唯一無二のグレン節で歌っています。国内盤のリリースはなかったのですが、「ラインストーン・カウボーイ」から08年録音のジャクソン・ブラウンのカヴァー「青春の日々」までの16曲の代表作をオリジナルで収めているボーナス・ディスク付きのものもまだ入手しやすいので、ぜひ。お節介ながら、『ADIOS』にはその予告編的なアルバムとして99年の『LOVE』というのがあり、こちらはグレンが個人的に好きだったラヴ・ソングのカヴァー集で、「タイム・イン・ア・ボトル」が聴けます。14年には、イギリスでの放送およびステージ音源をまとめたライヴ作『LIVE』(11年)と組み合わせた『LOVE & LIVE』(MUSIC CLUB DELUXE MCDLX 199)が編集されていますので、お薦めします。『LIVE』での「Beach Boys Medley」は圧巻です。
やさしき歌声の巨人グレン・キャンベルと彼の音楽への愛と感謝をこめて。
アディオス。
2017年9月20日 記 矢口清治
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